東京地方裁判所 平成10年(モ)7965号 決定 1998年8月27日
申立人
甲野太郎
相手方
松坂祐輔
主文
本件申立てをいずれも却下する。
事実及び理由
一 申立ての趣旨及び理由
1 申立ての趣旨
相手方の住所に臨み、相手方が所持する別紙目録記載の検証をする。
相手方は、右検証物を証拠取調べ期日において呈示せよ。
2 申立ての理由
申立人の本件の申立ての理由は別紙「申立ての理由」に記載のとおりであり、本件申立てに関係する部分の要旨は次のとおりと解される。
申立人は、「平成九年一月二〇日午後九時五分頃、埼玉県大宮市<番地略>パレスホテル大宮ビル六階所在のパレスセントラルフィットネスクラブにおいて、従業員二名から両上腕を掴まれるなどの暴行を受け受傷した」として、住友海上火災保険株式会社に対し、通院損害保険金を請求した。
しかし、右保険会社は、右暴行は、申立人が右フィットネスクラブの会員資格を喪失し、出入りを拒否されたにもかかわらず、自己の身分を秘して入ったことに起因するとして、保険金支払を拒絶した。
そこで、申立人は、平成九年九月三〇日、右保険会社の代理人である相手方の事務所を訪れ、相手方と面会し、再度保険金の支払を求めた。
しかし、相手方は、申立人に対し、同社の社員が作成したと思われる「レポート」と題する別紙目録記載の書面(以下「本件書面」という。)に基いて、再度、通院損害保険金は支払えないと回答し、さらに保険金支払を請求をするのであれば、右保険会社を相手方として訴訟を提起するよう述べた。
そこで、申立人は、本件書面が、相手方の支配下にあって紛失のおそれが強く、保存期間の定めもないことから、本件書面についての検証及び検証物の提示を求めている。
二 当裁判所の判断
証拠保全とは、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときに、訴訟における本来の証拠調べに先立って証拠調べをし、その結果を確保しておくことを目的として行われる手続である(民事訴訟法第二三四条)。そして、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難になる事情」とは、当該証拠が廃棄、紛失又は改ざん等されるおそれがある場合であると解されているが、証拠保全の制度目的を十分達成するとともにその濫用を防止する観点から、これらの事情の疎明については、単なる一般的・抽象的なおそれがあるという程度では不十分であり、個別的・具体的なおそれを推認させる何らかの具体的事実を疎明する必要がある。
ところで、本件において、申立人は、証拠保全の事由として、本件書面につき紛失ないし廃棄の一般的・抽象的なおそれをあげるのみであって、個別的、具体的なおそれを推認させる事実を主張、疎明していないから、この点をとっても証拠保全の事由の疎明として十分とはいえない。
さらに、一般的・抽象的な廃棄、紛失のおそれの有無についてみても、本件書面は、申立人が主張する暴行事件は、申立人の行動に起因するものであるなど保険会社の免責事由に当たる事由が記載されているものと推認されるから、相手方にとって、申立人の保険金請求を拒絶するためには、むしろ有利な資料となる書類であるといえる。このことに加えて、本件書面を所持すつる相手方は保険会社代理人の弁護士であるから、相手方が本件書面を廃棄、紛失などするおそれは高いということはできない。したがって、本件申立ては、証拠保全の要件を欠くものというほかない。
以上のとおり、本件申立てには理由がないので却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官宮武康 裁判官日暮直子)
別紙目録<省略>
別紙申立の理由<省略>